日本刀に使われる鉄は,炭素等の不純物が少なく,とても質が良い鋼.
刃の方は炭素量がやや多くてとても硬い組成.
それを受ける棟(背)の方は炭素量が少なく,柔らかい.これで衝撃を吸収します.
そんな良質の鉄には,黒錆がキレイにつくようです.
鉄の錆(酸化鉄)には,2種類があります.
1つは,水分が少ない状態で酸化したときにできる黒錆.
もう1つは,ボロボロと崩れていってしまう赤錆.
赤錆の発生した鉄製品は見るに耐えないほどです.
しかし,黒錆は違います.
表面の皮膜となって,鉄を強くします.
金はとても安定した金属で,どんな酸にも溶けないですが,王水(濃塩酸と濃硝酸が3:1のスゴイ酸,橙赤色)には溶けてしまいます.
しかし,鉄は,王水にも溶けないそうです.
王水に触れると,一瞬で表面に黒錆コーティングができ,内部に王水が浸食して来ないのです.
長くなりましたが,その黒錆の渋い味わいは,日本刀の茎(なかご・柄(つか・手で握る部分)の中に収まる部分)に見られます.
古い刀は,より良質の鋼を用いているとされ,経てきた時の長さにも比例して,茎の味わいも段違い.
薬品で黒光りさせているものもありますが,そんな嫌らしいものではなく,しっとりと潤いのある鉄味です.
そこに空けられた目釘(柄と茎を固定するための竹製の短い棒)を通すための穴が景色を作っています.
古い穴は,これが真円でなく少し歪んでいます.
穴を空ける専用の道具(ロクロ)がない時代は,タガネでコツコツと手作業で空けていたため.
その形を楽しむというマニアックさ.
これが,日本刀愛好家の世界です(笑)