絶対値について,
で少し扱いました.
書ききる前に力尽きてしまいましたので,今回は,絶対値だけをテーマにして書いてみようと思います.
「場合分け」と「定義域の分割」を混同してはならない
という話です.
まず,こんな問題を考えてみます.
―――――――――――――
aを0でない定数とする.xの方程式:ax=|a|を解け.
ただし,絶対値の記号を用いてはならない.
―――――――――――――
これは,aという文字定数に絶対値がついています.
文字定数には,数値を指定することができます.
そして,その都度,xの方程式を解くことになります.
例えば,a=2と指定すると,
2x=2 ……①
を解くことになります.
この等号を成り立たせるような未知数xを求める問題です.
2倍すると2になる数を答えるので,x=1になります.
実際,x=1のとき,
(①の左辺)=2×1=2
だから,右辺と一致しています.
等号を成り立たせる数,ということです.
例えば,a=5と指定しても
5x=5 ∴ x=1
ですし,a=100を指定しても
100x=100 ∴ x=1
です.
aの値に関わらず「x=1」が解であるなら,そのようにまとめて答えてしまえば良いのです.
しかし,そこまで甘くはありません.
a=-2を指定すると
-2x=2 ∴ x=-1
となるようです.
a=-3でもa=-10でも,x=-1になります.
どうやら,aが正であるか負であるかによって,答えが「x=1」だったり「x=-1」だったりするみたい.
だから,そのように「場合を分けて」答えます.
a>0のとき,x=1
a<0のとき,x=-1
これを,「x=±1」と答えるのは間違いです.
±1は,x=1もx=-1も解になる方程式を考えている,ということになります.
例えば,
x^2=1 ……②
の解が
x=±1
です.
x=1でも,x=-1でも,
(②の左辺)=1-1=0
となって,右辺と一致します.だから,両方とも解です.
これが,「場合分け」.
一方,こんな問題もあります.
―――――――――――――
xの方程式|2x-3|=xを解け.
―――――――――――――
|2x-3|=x ……③
の等号を成り立たせるようなxをすべて求める問題です.
未知数のxを含む式に絶対値が付いています.
先に答えを言うと,
x=1,3
が解になります.
x=1のとき
(③の左辺)=|-1|=1
(③の右辺)=1
x=3のとき
(③の左辺)=|3|=3
(③の右辺)=3
で,確かに両方とも解です.
では,これは,どう考えることになるのでしょう?
|2x-3|は,xの値によって,
2x-3
であるか,または,
-2x+3
であるか,のいずれかです.
前者はx≧3/2のとき,後者はx<3/2のときです.
この場合は,実数全体の中から,③を満たすxを探すのですが,
「x≧3/2の中で探した解」と「x<3/2の中で探した解」のいずれもが解になります.
x≧3/2において,③は
2x-3=x かつ x≧3/2
である.2x-3=xを解くと,x=3(x≧3/2の範囲に入っているから,OK)
x<3/2において,③は
-2x+3=x かつ x<3/2
である.これを解くと,x=1(x<3/2の範囲に入っているから,OK)
以上から,(実数全体の中で探したら)解はx=3,1
どうでしょう?
「場合分け」との違いはわかりますか?
xを考える範囲(実数全体)を,2つに分割し,それぞれの範囲で答えを探しました.
全体としては,分けて答えるのではなく,すべての解を列挙することになります.
これを「定義域の分割」と呼んだのです.
分けて考えることを,何でも「場合分け」と呼ぶ風潮があるように思います.
これは,大きな混乱を生んでいるのではないかと,思っています.
ぜひ言葉遣いには気を付けてください!
数学をしっかり勉強するためにオススメの本です.
〇入試問題集〇
ホクソム本は,安田先生のコラムがたくさん入っていて面白いです.
今年はできるだけ早く出すぞ!とおっしゃっていました.
〇変わった問題集〇
同じく大数執筆者ですが,こちらは教科書や参考書で凝り固まった頭の人には衝撃的な問題集です.
定性的な数学(ふつうは,定量的です).
思考する数学をやっている人は,「当たり前のことしか書いていない」と思うようです.
共通テストに不安がある方には,そのベースを作るのに良いと思います.
〇解答の書き方を学ぶなら〇
同値記号の誤用,論理の破綻・・・
ダメな答案はいくらでもあります.
問題集や参考書の解答の中にも.
かなり深く抉り込んでいる本で,難問の記述をしなければならない人にはオススメです.
学生にも,数学の先生にも(特に,先生へ).